アコンカグア登山 2015年12月14日〜27日

 

12月26日(13日目):Nido→サミット→ムーラス

朝3時起床。

今日もとても寒い。そして、風も少し強い。
夜の間中バタバタ音を立てるテントの中で、眠れず、ずっと風が止むように祈っていたが、祈り届かず。

本当に今日は登頂適日なのか??

しかも今日は僕1人でのサミットプッシュになる。正直、寂しい。。

7000m近いアコンカグアに、僕みたいな登山初心者が単独登頂を狙って良いものか

不安はあるが、冒険心はくすぐられている。

僕がどこまでできるのか、試したい気持ちの方が圧倒的に強い。

できれば、何か事件が起きるギリギリの環境で自分の限界を感じてみたい。

「もうダメだ!ここがオレの限界だ!!」と感じたい。

 

この9ヶ月、ヒマラヤ・アルプス・キリマンジャロ・パタゴニア・6000m峰ワイナポトシと立て続けに挑戦したが、全てクリアしてきた。出来過ぎだ。

アコンカグアは記念登山のつもりだったが、遂にここまで来てしまった。

調子に乗ってる僕の心を折ってほしい。

今日までアコンカグアでの12日間は本当につらかった。

正直早く帰りたいし、2度と来たくないし、他の山で同じようなこともしたくない。

でも、もし登れてしまったら、きっと次の挑戦をしたくなってしまう。

おそらく登山家はこういう気持ちで難しい所に挑戦し続けるんだろう。

 

僕はただの山好きなので、もう終わりにしたい。

 

でも、結果Nidoからたったの7時間で登頂。

コースタイムでは11時間くらいかかる道程だという。

頂上6,962mでも高山病の症状は現れず、しかも、この日登頂したのは僕だけだという。。

 

朝3時、昨日より1時間早く目覚まし時計とともに目覚め、氷の張ったテントの中で一気に身体を起こし、雪を溶かし温かい紅茶を作る。

昨日と同じビスケットの朝食。

ひかりさんにテルモスに紅茶、ナルゲンボトルにジュースを作ってもらい、4時前にテントの外に出る。

 

風が強い。

 

ウンチを済ませ、装備を整える。

 

寒さで指が動かないし、痛い。

プラスチックブーツとアイゼンを装着するのに20分くらいかかってしまった。

 

出発は4時15分。

気温は-10℃くらい。しっかり装備を整えていれば身体はそれ程寒さを感じない。

外気に触れている鼻の周辺と、手足の指だけが痛む程度。

 

出発。まずは高所登山の歩き方を復習する。

一歩足を出すごとに一呼吸。

1.5秒に1歩くらいの信じられないほどゆっくりのペースでしっかりと一歩一歩足を前に出す。

普通の歩きのペースだと一気に酸素を消費してしまい歩けなくなる。

 

10分くらいこのペースに慣れるために、歩きに集中していた。

ふと腕時計の高度計を確認すると、全く標高が上がってないことに気付いた。

「しまった!!足に集中し過ぎて道を間違えた!」

Nidoからは最初は緩やかな登りになっている。

すでに2度もNidoから上に登っているのに何たる失態。

真っ暗な中、ヘッドライトの明かりだけが頼りなので、本当なら戻るのが1番だけど、急斜面を直登し、道を探すことに。

せっかく酸素消費を抑えてきたのに、イキナリ大量の酸素を消耗してしまう。

息を切らし、5分ほど直登し、道らしきものを見つける。

 

ホッとした。

 

気付くと風が落ち着いていた。

こりゃチャンスと思い、一気にゆっくりと標高を稼いでいく。

なかなか良いペース。

 

ここまで来ると、人によっては数歩進んでは息を整えて、また数歩進んで息を整えて。という歩き方になるが、僕は高所にしっかり順応できていたので7〜80歩程一気に歩くことができた。

 

月明かりに照らされたアンデス山脈の山々が美しい。

GR016034

今日のこの景色を見ているのは僕だけ。

僕だけのための景色。贅沢な気分になる。

GR016036

Berlinを通過し、2時間かからずに5,970m地点のCorelaに到着。

これで Corelaに登ってきたのは3回目だが、やはりここは風が強い。

そして、寒い。

温度計は-15℃になっている上に風が強いので体感はさらに低い。

 

でも、ここで本日2度目のウンチタイム。

岩陰に隠れ、お尻を出すと、体温が一気に奪われていく。

出たがっていた物も、奥の方に引き返していく。戻っていく物を無理矢理外に引きずり出す。

この作業に20分程使ってしまった。

おかげでお尻は凍りつくし、足は痺れるし、息も切れるし。

足の痺れを癒すのにさらに10分、ジュースや行動食を食べながら休む。

すでにナルゲンボトルの蓋は凍りついて開けるのに苦労した。

チョコも冷凍庫から出したみたいに硬い。

美味しくない。

 

6時半。再び歩き始める。

1人だと足が重い。

すでに明るくなってるが、陽は当たっていないので寒い。

ヘッドライトをしまい、手が痛いのでオーバーミトンを付け、ピッケルを持つ。

持ちにくいが、苦労は無い。

 

僕は、ミトンを盗まれて凍傷になりかけた人を知っているので、早目にミトンを装着することに決めた。

 

ここColeraには多くのテントがある。

本来ならばココからサミットプッシュするのがより確実だけど、
おそらくNidoよりも風が強く、寒い。

しかも雪も少ないので水を作るのも苦労するだろう。

 

ひかりさんもここからサミットプッシュができれば登頂していたに違いない。

当初はColeraをC3とする予定だったが、Nidoでのテント生活も限界に近かったのに、さらに高所で不快そうなColeraにキャンプを設けるのはどうしても気が進まなかった。

 

「今日もココから沢山の登山者がサミットを狙うのかな?既に何人か登ってるんだろうな。」

 

な〜んて考えてると仲間がいる気がして心強かった。

やっぱ1人は心細い。

 

まぁ、実際には誰も登ってなかったんですが。。

 

すぐに、昨日ひかりさんが断念した6,200m地点CampoⅢを通過。

登り始めて3時間半で6,370m地点、Indipendenciaに到着。

破壊された避難小屋があるだけ。

GR016039

ここも風が強く、気温は-18℃。

まだ陽が当たらない。

おしっこをすると地面に吸い込まれ、一瞬で凍りついた。恐ろしい。

 

ここから先は有名な大トラバースやグラン・カナレタと呼ばれる難所になる。

 

数日前に会った日本人登山者シミズさんが

大トラバースやグラン・カナレタはアイゼンとピッケルが無いと死ぬレベル

と、言っていたのを思い出す。

 

しかも、昨日登頂したウシヤマ氏は

大トラバースを見て、何人か屈強そうな西洋人が登頂を諦め引き返した。

と言っていた。

 

独りは嫌だと思いながら6,500m地点大トラバース前に立ったが、誰も居ない。

しょうがないので独りで歩き始める。

GR016047

かなりの高度感。
風も激烈に強く、温度計は-21℃を示している。強烈な風のせいで体感温度は-30℃を下回るのか?

鼻が激しく痛い。体温がどんどん奪われていくのを感じる。

 

でも、確かに大トラバースから一歩踏み外せば、ハッキリと見える2,000m下のプラザ・デ・ムーラスまでノンストップで戻ることができるが、

道幅も50cm〜1m弱あるし、雪も寒さのためにしっかりしているのでアイゼンがキマッてくれるので、さほど恐怖は感じない。

むしろ、高度感と解放感が気持ち良くすらある。
時たま突風で身体が浮きそうになるが、ピッケルを突き刺し、風が通り過ぎるのを待てば問題無し。

 

そして、お次は6,660m地点グラン・カナレタ。

GR016064

ここはさらに高度感が半端ない。

 

大トラバースを遥か下に眺めながら、よじ登るように雪の斜面を150m程登る。

GR016058

本来ならばここに雪は無く、ガレやザレの急斜面を「3歩登って2歩下がる」しなければならないらしいが、

今は雪が付いているので、アイゼンがキマり、とても登りやすい。

その分、足を踏み外せば2,400m下に真っ逆さまだけど。

 

また、他の登山者がいる場合は、上から岩や石が落ちてくる可能性が高く、危険。

今日は何故か誰も居ないので、安全。

 

途中、またまたオシッコをするが、風が強く、しかもあらゆる方向から吹くので、なかなか狙いが定まらない。

 

ナルゲンボトルのジュースも凍りつき、飲むことができない。

 

しょうがなく、テルモスのお茶を取り出す。
温かくて美味しい。

そうこうしているうち陽が照りだす。

GR016056

-16℃まで気温が上がってくれる。嬉しい。

 

そして、6,900m地点。グラン・カナレタを越えて、最後の登り。

今までのような恐怖は感じないが、かなり距離がある。

しかも、息苦しい。歩きにくい。

しっかり空気を吸いながらも、20歩程歩くと息が切れて呼吸を整える。

 

頂上は見えているのに延々40分。

 

ついに、11時26分。6,962mアコンカグア頂上に到着!!

Nidoから1,400m。7時間11分。ウンチや動画、写真撮影に時間を使いながらも。

GR016073

アジアのヒマラヤ山脈やカラコルム山脈を除いた山では世界最高峰のアコンカグアの頂上はシンプルで広い。

バスケットボールコート位の広さに、十字架が1つあるだけ。

GR016075

登頂記念の動画を撮影するが、歩きながら喋っていると息が切れて解説できない。

 

気温-18℃。風強し。高度障害は無し。

 

また登れてしまった。

もう2度とこんな山には来たくなかったが、まだ余裕がある。

7,000m狙うか?もう少し難しい山を狙ってみるか??

 

今はイイや

 

限界では無いけど、この13日間、本当に辛かった。

下界に降りることばかり考えていた。肉とワインを飲むことばかり考えていた。

今日だって、早く下界に降りたい一心で急いで登ってきた。

 

またまたオシッコをし、一通り写真を撮り、お茶を飲み、行動食を食べながら他の登山者の登頂を待つ。

写真を撮ってもらう為。

 

だけど、1時間経っても誰も来ない。

下を覗き込んでも誰も居ない。早く登りすぎたか??

 

あまりの寒さに、自撮りをして帰ることに決めた。

GR016067

(やはり高度で脳がやられていたのだろうか?-18°C&強風の中で。ひとりぼっちの山頂にて。乳首が強烈に痛い。)

下山はとても危険な道程だが、Nidoまでは約2時間で戻れる。

GR016082

途中、山岳ポリスの2人組に呼び止められる。

ポリス「お前はソロクライマーか?
僕「そうだ。まだ誰も登ってこないね。」
ポリス「今日はお前だけだ。

 

えっ?僕だけ??何で???

 

僕「今日は天気が良いのにね。」

首を横に振るポリス達。

何か言っているが聞き取れない。

ポリス達にキャラメルをもらい、水がどれだけ残ってるか確認される。

僕が下り始めると、ポリス達も重い腰を上げ、ゆっくり下り始める。

もう帰るの??

通常なら15時位まで残り、頂上付近の警備を続けると聞いていたが。

 

 

Coleraより下で高度順応中の登山者達に会い、登頂したことを話すとハイタッチをして喜んでくれるが、

レンジャーがナンチャラカンチャラ言っている。僕の英語力やスペイン語力では聞き取れなかった。

 

もしかしたら今日は朝早くにレンジャーによって登頂不適日に変更になったのかもしれない。

風が強かったし、午後から山頂の天気が悪化した。

僕はかなり早く登頂できたので被害に遭わなかっただけで、本来ならば危険だったのかもしれない。

 

そりゃ誰にも遭わなかったわけだ。

 

Nidoに戻ったのは午後2時半。

ひかりさんが作ってくれたリゾットを食べる。

めっちゃくちゃ美味い!!

GR016083

急いで支度をし、全ての荷物を背負い、プラザ・デ・ムーラスに戻る。

やはりNidoは嫌いだ。疲れてはいるが、これ以上滞在したくない。

 

2人で50kg近い荷物を背負い、1,400m以上の登頂をキメた後に、更に1,200m下る。

 

股関節が痛む。スピードが出ない。さすがに無理があったか??

 

18時、ムーラスに到着。

昨日登頂したウシヤマ氏も、今日ムーラスに降りていたため、健闘を讃え合う。

GR016087

僕は喫煙者です(ひかりさんのお父さんお母さん、すみません)。

野菜でも植物でも、動物でも人間の身体でも、優しい環境では強くなりません。

少しストレスを与える方が強くなるらしい。

 

僕は1日3〜4本吸います。

もちろん今日まで1ヶ月、アコンカグア登山のために禁煙していました。

でも、今までちょっとの喫煙をしていたことで僕の肺は逆に強くなり、7,000mでも高度障害が起きなかったんではないかと勝手に分析しています。

僕の考え方なので参考程度に。言い訳です。すいません。。

 

 

夕食を終え、就寝。

4,350m地点とはいえ、5,000mを下回ると環境が一変し、かなり快適に過ごせる。

 

12月27日(14日目):Plaza de Mulas→メンドーサ

いよいよ下山。

10時に40kgの荷物をムーラ(馬のような動物)に預け、僕等は1人10kgちょっとの荷物になる。

チェックアウト(ウンチ袋やゴミ袋の回収)を済ませる。

 

足が痛い。

歩けないのでロキソニンを飲み、痛みを抑えて下る。

長い。

今日はオルコネスまで30kmくらい、1,400mの下り。

途中のコンフルエンシアでこれから登山する日本人4人に情報を伝える。

 

ペニテンテまでの送迎バスの時間があるのでダッシュで下る。

足中マメだらけになる。

 

上部の雪が溶け、至る所で川のようになっており、かなり大変な道程だった。

この14日間でもトップクラスにツライ1日になった。

 

18時、オルコネス到着。

 

車に乗り、ペニテンテに戻る。

ペニテンテのホテルでムーラに預けた荷物を受け取り、久々のビールを飲み、

GR016093
ほろ酔いの状態で20時のバスでメンドーサに向かう。

 

途中、川が氾濫し、橋が破壊されている。

やっぱり今年は雪が多かったんだなと再確認。夏になり、雪が溶け始め、山の麓では川が大氾濫しているらしい。

 

メンドーサ到着は24時前。

宿に到着し、ビールと残りの山飯を食べ、シャワーを浴びて就寝。

本当に本当に本当に気持ちイイ!!

下界最高!!

 

この14日間、山のことしか考えてなかった。

14日間336時間、全ての行動、発言、思考。寝ることも、食べることも、歩くことも、排泄することも、話すことも、考えることも。

全てが登頂のため。

こんな経験したことありますか??

何か1つの事を成し遂げるために、完璧に全てのエネルギーと時間を注ぎ込む。

僕は初めての経験。

今後のための良い経験になりました。

 

12月28日:メンドーサ

レンタルした道具を返しに行く。

登頂記念に店の壁にコメントを書く。GR016094

GR016095すると、アコンカグア情報サイトのaconcagua onlineのホルヘ氏からインタビューを受ける。

後日、氏に登山時の写真を送ることになり、おそらく情報サイトに僕等のことを載せてくれることになった。

 

29日にウシヤマ氏と祝勝会&忘年会をする。GR016104

 

こうして、僕等のアコンカグア登山は完全に終了!!

年末年始はメンドーサで肉とワイン三昧の日々を過ごして、

1月4日現在は、アルゼンチン北部の街、サン・フアンにいます。

残り4ヶ月の世界一周旅行を続けたいと思います!!

 

Posted by Takumi

 

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